京都大学経済研究所 先端政策分析研究センター教授
丸谷 浩明(まるや ひろあき)氏
不安を忘れてしまいたい「忘災」から、一歩一歩備える「防災」へ
今回は、京都大学経済研究所 先端政策分析研究センター
丸谷浩明教授よりコメントを頂きました。
防災や事業継続計画などの
<私たちを守ってくれる国の施策>に丸谷教授の知見は
必要不可欠となっています。さまざまな場面で、
はっきりとした前向きな意見をテキパキと判り易く
ご発言になる丸谷教授は、防災活動をより効果的かつ
効率的に進める牽引役のお一人です。毎週京都と東京を
往復しながら、わたしたちの<災害に備える元気>を
着実にパワーアップして下さっています。
不安を忘れてしまいたい「忘災」から、一歩一歩備える「防災」へ
私は、企業や市民活動が、災害への備えをどのように進めるのが有効かを研究し、
防災のNPO活動にも加わっています。
ガラスパワーキャンペーン10×10防災ガラス寄贈プロジェクトは、
防災仲間の情報で知り、その後、旭硝子社が、政府の中央防災会議
「災害被害を軽減する国民運動の推進に関する専門調査会」の場で、
企業の社会貢献の事例としてプレゼンされたのを詳しく聞き、感心しました。
災害への備えが着実にできる時代に
避難所が安全であること。当たり前なことですが、防災分野では
当たり前が難しいのです。予算がない、暇がないので来年にというのが
現実にはよくあります。また、日本のように自然災害が断続する国では、
なすすべもない不幸や不安は忘れていくことが、人間の精神的な自己防衛に
必要だったのかもしれません。しかし、今は昔と違い、知恵や技術の進歩で
「なすすべがない」状況ではありません。費用や手間がそこそこで出来る防災対策で、
一歩一歩安心を積み上げることができる時代です(防災ガラスもその1つ)。
人は、少しずつでも着実に前進できるとき、不安は充足感に、
そして「楽しみ」にさえ変わってくると思います。
避難所での安全の受益者
避難所に防災ガラスが入れば、ガラスが割れて避難所に入れない事態を
回避できますし、さらに新潟中越地震のように大きな余震が続く被災地では
一層重要です。避難所の安全は、避難される被災地の方々のためはもちろんですが、
近隣や遠方からも駆けつけてくださる、多くの災害ボランティアや派遣者の方々の
善意が悲劇に変わることを防ぐためにも、最も基本的な事項です。
支援者の災害救援活動での安全・衛生問題は、重視されなければなりません。
企業活動にも平時のマネジメントとしての防災を
継続的な備えは、企業活動にも問われています。
災害時にも自社の重要業務を中断させず、中断してもできるだけ早く復旧させるため
周到に準備しておくという事業継続計画(BCP)。その普及が私の仕事の柱です。
事業継続は、自社のためだけでなく、例えば首都直下地震の被害が、
取引先に影響を与え、全国・世界へ連鎖的に波及することを防ぐために必要なのです。
そして、そこでは「人」がもちろん重要。お客様や雇用者の安全確保と避難が
第一ですが、次に、雇用者や家族が自宅で負傷しては、仕事場に来られず
事業継続は困難です。職場と自宅において家具やガラスでケガをしないことは、
企業存続のための第一歩です。
10×10の発想の社会的発展を
旭硝子社は、このプロジェクトをささやかなものとお考えかもしれません。
しかし、市民や社会はこのような取組みを大きく評価すると
表明した方が良いと思います。企業や団体による防災への貢献や投資が
市場や社会から評価されること、それが取組みを長続きさせ、
一層発展させるのに不可欠だと考えます。
そして、研究者や政府は、そのような評価の仕組みを市民・市場とともに提案し、
具体化し、広める責務があると思います。
防災にみんなが積極的になっていける社会の実現に向け、
一歩を踏み出していきましょう!
<略歴>
1983年4月 東京大学経済学部経済学科卒業
建設省入省後、経済企画庁、在シンガポール日本国大使館、
阪神高速道路公団に勤務。
建設省建設経済局建設市場アクセス推進室長、
国土交通省建設振興課労働資材対策室長、
内閣府政策統括官(防災担当)歴任
2005年7月 京都大学経済研究所 先端政策分析研究センター教授
<著書> 「中央防災会議『事業継続ガイドライン』の解説と
Q&A-防災から始める企業の事業継続計画(BCP)」(編著・共著)
2006年1月 日科技連出版社
「巨大地震-首都直下地震の被害・防災シミュレーション」(共著)
2005年10月 監修:坂篤郎、地震減災プロジェクトチーム、
角川ワンテーマ21、角川書店
「都市整備先進国・シンガポール-世界の注目を集める
住宅・社会資本整備」(単著)
平成7年11月 アジア経済研究所
「建設経済の基礎知識-住宅・土地・公共投資のやさしい分析」(単著)
平成2年6月 (財)経済調査会
<論文> 「公共投資の地域配分の特徴と決定要因」(単独論文)
1989年9月 経済月報(平成元年9月号)経済企画庁調査局
「近年の民間・公的ストックバランスと社会資本整備」(単独論文)
1990年9月 経済月報(平成元年9月号)経済企画庁調査局