東京駅に隣接する、高さ約150mの超高層ビル「パシフィックセンチュリープレイス丸の内」(以下、パシフィックセンチュリーと表記)は、2001年に誕生したランドマークです。
今回は、この日本を代表するガラス建築の成功に、「エコ合わせガラス」がいかに役立ったのか、設計を行ったパシフィックセンチュリープレイス共同設計室(日建設計・竹中工務店)の車戸さんにお話を伺いました。
日本で初めて成功した、ガラスのスカイスキャナー(摩天楼)。
安全で空調負荷の少ない建築に不可欠だったのが
「エコ合わせガラス」。
パシフィックセンチュリーを設計し始めた1997年、当時は日本で最も早いオール透明ガラスカーテンウォールの超高層ビルのひとつでした。
モダニズム建築を代表するミース※が1世紀も前に発表したクリスタルなイメージを実現させたいという思いで、一からスタートしたんです。僕たちは、透明ガラスを「クリスタル」と呼んで、表現にも相当こだわりました。
※ミース・ファン・デル・ローエ(独)、代表作はニューヨークのシーグラム・ビルディング等
日本国内の風圧力などの安全基準や、ガラスの超高層では既に実績のあった米国の安全基準も取り入れ、総合的な性能評価によって選んだ「合わせガラス」。
課題はたくさんありました。あらゆる災害のケースを総合的、複合的にとらえ、評価し反映した安全・防災基準はなかったんです。欧米の諸外国の基準に沿って、手すりや無目を入れるか、強化ガラスもしくは合わせガラスにするか・・・等と、色んな話し合いをする中で、合わせガラスになりました。
ガラスの「割れ」を徹底的に調査。
大小様々な物がぶつかるシチュエーションに耐えた「合わせガラス」。
左:板ガラス 右:合わせガラス
45kgの重りをぶつけてガラスの割れ方を比較するサンドバッグ試験。(旭硝子資料より)
実は地震時にビルの家具にどのような挙動が起こるか、それが建物の窓や床、壁等様々な部分にどのような影響を与えるかということを総合的に調査検証した資料がなかったんです。例えば阪神淡路大震災の調査といっても、家具は家具、建築は建築というふうに、バラバラなんですよ。互いの連携によってどんな被害があったのか当時うまく系統立てて資料化されていなかったのです。
ガラスだって、海外のガラスは風圧が違うし、日本には、ガラスのシミュレーションはサンドバッグ(写真参照)だけしかなかったんですよね。じゃあ、「キャビネットの角が当たったらどう?」等、小さな点で加重がかかった場合も含めて、色んなシチュエーションを想定してシミュレーションしました。一から全部組み上げていった結果、選んだのがあの合わせガラスなんです。
コストの課題を解決するためにも「エコ合わせガラス」が必要だった。
あの3枚のガラス【エコ合わせガラス=合わせガラス+Low-E(エコ)ガラス】にしたのは、主にコストの課題を解くためです。例えば安全についてだったら、避けなきゃいけない危険性が何で、正確に回避するにはこう、ガラスで解ける問題はこうだ、他のやり方だったらこうだと検証した結果、合わせガラスになったわけです。空調負荷の問題にしてもそう、限られたコストの中で最適な方法を科学的に検証しなくちゃいけないんです。
「エコガラス」と簡易エアフロー方式で、コストと空調負荷の課題を解決!
僕がコンペであのデザインを提案した1997年に、まだ日本に全て透明ガラスのカーテンウォールがなかったのは空調負荷が大きすぎるからです。諸外国でも、透明ガラスだけというのは非常に少なかった。相前後して出た透明ガラスのタワーは、ダブルスキン※という方法をとっているんです。僕も全てのガラスを透明にしてオールガラスカーテンウォールでやりたいと思っていたのですが、ダブルスキンではコストがかかり過ぎる。そこで導入したのが「簡易エアフロー方式」です。熱をコントロールするために安くて簡単な方法なんですよね。「簡易エアフロー方式」にするには、Low-E(エコ)ガラスで外から入る熱量を半分にすることが必要だったんです。
※ダブルスキン=外側と内側に窓があって、その間にあるブラインドが太陽光を受けて熱くなって、この熱を外に出してしまうという方法。
防音については、ホテルとしては当然の要求。
新幹線が下を通っても全く音がしないという体験ができる。
写真はイメージです
フォーシーズンズホテル(3階~7階)は、防音のために、もう一枚ガラスを取りつけています。上から吊って両方のマリオンに押し付けるようにしています。本当に静かです。目の前に新幹線が通っていても全く音がしないという経験ができますよ。
防音対策は、ホテルとしては当然要求してきますよね。そこがひとつの課題でした。
目の前には新幹線が通っています。しかも、建物の目の前に線路のポイントがあるんです。あの電車の「カタッ」という音。新幹線は重いから「カターッ」というんです。
あの音をコントロールしなきゃ、というのが課題でした。フォーシーズンズホテルのガラス1m²あたりの重量は普通の建物より相当重いのでそれだけでも遮音効果はずいぶんありますよ。
今となっては増えてきた、透明ガラスのカーテンウォール建築。
日本は地震が起こるので、危険性を理解して取り組んで欲しい。
パシフィックセンチュリーを見て、「ガラスでつくっていいんだ」と簡単に思われていたら危ないですよね。パシフィックセンチュリーのガラスはスペックが高いし、1~2階で合わせガラスが使えなかったところは必ず手すりを入れました。中のレイアウトが自由にできない場合は厳格な貸し方基準を設けています。何十人もいる会議で議論を重ねました。ガラス屋さんも大変だったと思いますよ。僕の要望に、「できる」「できない」「いやできる」を繰り返して、最後にはできた。「やってみるもんだなぁ」と。僕の担当になっちゃった人は可哀想ですねけどね(笑)。
でも、日本は地震があるので憂慮されているんです。建物の危険性をしっかりと理解して取り組んでいくべきだと思います。